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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)53号 判決

原告

トツパン・ムーア株式会社

被告

特許庁長官

主文

1  特許庁が昭和54年審判第8709号事件について昭和56年12月25日にした審決を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1当事者双方の求めた裁判

原告は主文同旨の判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和48年5月26日、名称を「帳票入り封筒用帳票」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をしたが、昭和54年5月17日、拒絶査定を受けたので、これに対し審判の請求をした。特許庁は右請求を昭和54年審判第8709号事件として審理したうえ、昭和56年12月25日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、昭和57年2月12日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

「切取部を境に切り重ね用の2片が連接してなる平面状態の単位帳票の所望片の表面または裏面に各片と同サイズまたは同サイズ以下の帳票が貼着されてなり、切取部を境とする一方の片の表面側を宛名記載面とし、他方の片の表面側を情報記載面としてなり、切取部を境とする一方の片の裏面または他方の片の表面の四周辺に沿つた所定部分に、通常の状態では接着することなく、所望の宛名、情報を記載した後2片を切取り重ね合わせた際に付与する熱、圧などの接着条件にて重ね合わせた部分を接着する接着材が施されてなると共に、該接着材の内側の所定部分および2片を切り重ね合わせた際に該所定部分と重なり合う部分に開封用ミシン目が穿設されてなる帳票入り封筒用帳票。」(別紙図(1)参照)

3  審決の理由の要点

1 本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

2 米国特許第3,273,785号明細書(以下「引用例」という。)には、「シートの表面を情報記載と面となし、該シートの四周辺の所定部分に接着剤13、14を施すとともに、接着剤の所定部分に隣接して開封ミシン目18が穿設された下シート11に、該シート11のサイズ以下の帳票21が貼着されており、一方、下シート11に対応する同サイズのシート10の表面を宛名記載面となし、かつ下シート11に穿設されたミシン目18に対応する位置に同じくミシン目19が穿設された上シート10が各々分離されてなる封筒構成紙片を重ね合わせた帳票入り封筒用帳票。」について記載されている(別紙図面(2)参照)。

3 本願考案と引用例を対比すると、両者は、①単位帳票の形態が、後者のものが上シートと下シートが予め各々分離されておるのに対して、前者のものは切取部を境に切り重ね用の2片が連接されている点及び②前者の単位帳票の接着剤の内側の所定部分および2片を切り重ね合わせた際に該所定部分と重なり合う部分に開封用ミシン目が穿設されているのに対して、後者は欠如している点で相違するが、帳票入り封筒用帳票の構成では一致している。

4  相違点①に関しては、帳票入り封筒用帳票という共通の技術分野にたつ引用例のものが予め分離された上、下のシートを重ね合わせている以上、本願考案のように重ね用の2片を切取部を境に連接しておき、帳票作成時に切離して重ねることは当業者が必要に応じてきわめて容易になし得る程度のことと認める。相違点②に関しては、封筒用帳票の開封はもとより、使用目的に応じて切取り用、折り込み用、さらには両者を兼用したミシン目を施し、その何れかを選ぶことは、当業者のみならず、きわめて通常に採用されている以上特に本願考案のように接着剤の内側の所定部分および2片を切り重ね合わせた際に該所定部分と重なり合う部分に開封用ミシン目を穿設することは当業者が必要に応じて当然に行なう単なる設計変更であり、この点に考案は認められない。

5  したがつて、本願の考案は引用例に記載されたものに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取消すべき事由

審決の理由の要点1は認める。同2のうち下シート10の表面が宛名記載面であることは否認し、その余は認める。同3は認める。但し相違点は同項記載の点のみではない。同4ないし5は否認する。審決は引用例記載の発明を誤認し、本願考案と引用例記載の発明との相違点を看過し、両者の相違点に対する判断を誤つた結果、本願考案の進歩性を否定したものであるから、取消を免れない。

1 本願考案の特徴

本願考案は次のような作用効果を得られる点に特徴がある。

(1)  住所、宛名以外の情報を多く記入することができ、しかもこれらを2片連接の平面状態で同時に記入できるので、連接した宛名記載面と情報記載面に対する印字状態を常に見ながら印字できる。

(2)  印字機械にて情報を印字した場合にも鮮明な印字文字が得られる。

(3)  平面状態で連接の2片の所定位置に備えた切取部、接着材、開封用ミシン目の構造により帳票入り封筒の作成が容易となる。

(4)  前記(1)から(3)の作用効果の相乗作用により、各種事務用途に使用できる帳票入り封筒作成のための帳票が容易に得られる。

2 引用例記載の発明の誤認とこれによる相違点の看過(取消事由(1))

引用例記載の発明の上シート10の表面には開口部が設けられているから、上シート10が宛名記載面でないことは明らかである。したがつて、上シート10を宛名記載面であるとした審決の認定は誤りである。同発明における宛名記載面とは下シート11に貼着される帳票21であり、上シート10は下シート11及び帳票21のカバーである。

このように引用例記載の発明では下シート11の表面は情報記載面であるが、上シート10は開口部を有しその表面は宛名記載面ではない。これに対し、本願考案では切取部を境とする一方の片の表面側を宛名記載面とし、他方の片の表面側を情報記載面とする構成である。したがつて、両者は2つの片のうちの1つの片が後者では宛名記載面であるが、前者では宛名記載面でない点で相違している。しかるに審決は右の相違点を看過した。

3 相違点①に対する判断の誤り(取消事由(2))

(1)  この点に関する審決の判断は封筒作成作業の過程における作成方法を論じているものであるが、本願考案はかかる作成方法ではなく、帳票入り封筒用帳票という物品の構成を要旨とするものである。本願考案と異なり上下シートが別体である引用例記載の発明を基にして、重ねるという操作或は重ね合わせた構成から本願考案の構成、特に前記1に述べた効果を奏する宛名記載面と情報記載面を切取部を境とした平面状態に連接した構成をきわめて容易に推考できるものではない。

(2)  乙第1、第2号証により連接したシート2片を折込んで重ね合わせる封筒用帳票が周知であつたとしても、右乙号各証は連接したシート2片を切離して重ね合わせる封筒用帳票を開示していない。仮に予め「分離」してあるシートを一体の封筒用帳票として構成する必要が生じたとしても、「切離」して重ね合わせる点が周知でないからして、乙第1号証、同第2号証に開示されている手段、すなわち、「折込」んで重ね合わせる一体構成を採用するしかない。また、これら乙各号証に記載された考案は、3紙片以上の紙片連接構成の封筒用帳票であつて、本願考案と構成を異にし、その作用、効果においても表面側の宛名記載面と連接する情報記載面を隠蔽して郵送状態の封筒とするのに少なくとも3紙片と2度の重ね合わせを必要とするからして、宛名記載面と情報記載面との連接2紙片を要件とする本願考案の作用効果と均等の作用、効果を奏し得ないことが明らかである。

したがつて、引用例記載の考案と乙第1、第2号証記載の考案により相違点①の本願考案の構成を着想することはきわめて容易とはいえない。

4 相違点②に対する判断の誤り(取消事由(3))

審決は、相違点②に関しては、当業者が必要に応じて当然に行なう単なる設計変更であると認定しているが、2片を平面状態に連接した状態での所定位置における開封用ミシン目の穿設ならびに接着材の設置は、帳票入り封筒の作成を容易にするための構造であつて、格別な作用、効果を奏すものであるからして、当業者が必要に応じて当然に行なう単なる設計変更と断定できるものではない。

第3請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。

2  被告の主張

1 取消事由(1)について

(1)  引用例には「このような二重の宛名書きや処理は、時間の浪費であり、費用が高くつく。」と記載されているが(1頁15行ないし16行、訳文による。以下同じ)、右にいう「二重の宛名書きや処理」(以下「二重記載」という。)とは、「封筒の表、すなわち引用例記載のものにおいては上シート10」の表面と「帳票21」の表面とに、それぞれ宛名を記載することにほかならず、係る事実を前提として、二重記載の無駄を省くために上シート10の表面に開口部を設けたものが、引用例に記載された発明である。したがつて、上シート10の表面は宛名記載面であり、たとえ上シート10の表面に開口部を設けたことにより宛名を記載する必要がなくなつたとしても、それは宛名の二重記載の無駄がなくなつたということだけであつて、シート10表面が宛名記載面ではないことにはならない。

なお、原告は、引用例記載における宛名記載面は、帳票21の表面のみであると主張しているが、帳票21に記載されているものは、帳票21を送るための宛名とは認められないので、原告の主張は誤りである。すなわち、帳票21に記載されている住所・氏名は、帳票21の特有の必要記載事項であり、帳票21の必要記載事項と帳票21をと送るための封筒の表面となる上シート10の表面に記載される宛名とが同一の場合、上シート10に開口部を設け、帳票21の必要記載事項が、見えるようにして、二重記載を防止したものが、引用例記載の発明であるから、宛名は、上シート10の表面に記載されるはずのものであつて、帳票21に記載されたものではない。したがつて、引用例記載のものは、結果として、帳票21に記載されている帳票21特有の必要記載事項が、宛名として単に使われているにすぎないものである。

(2)  仮に上シート10が宛名記載面でないとしても、本願考案は「封筒」に関するものであり、また一般に「封筒の表になる帳票」の表面が宛名記載面になるのは当然のことであるので、本願考案のように宛名記載面の構成を限定しないまま「切取部を境とする一方の片の表面側を宛名記載面」と構成することは、引用例記載の上シート10の表面が宛名記載面であると認定するまでもなく、きわめて容易になし得ることである。

2 取消事由(2)について

上下のシート2片を重ね合わせて封筒として使用する封筒用帳票において、(イ)右シート2片が、予め分離されているものは、引用例に記載されており、また、(ロ)右シート2片がミシン目を境に連接しているものは実開昭48―18508号公報(同年3月2日公開)(乙第1号証)及び実開昭48―18509号公報(前同日公開)(乙第2号証)に記載されている。右(ロ)は、いずれも本願出願時周知のものであるが、連接するシート2片を重ね合わせて封筒とする場合、右ミシン目は「折込部」を形成するものであつて、本願考案の如く「切取部」を形成するものではない。しかしながら、連接するシート2片を重ね合せて封筒にする場合、右(ロ)のものの如く「折込」んで重ね合せるか、あるいは本願考案の如く「切離」して重ね合せるかは、右(イ)の引用例の如く、予め「分離」してあるシート2片を重ね合せるものが公知である以上、必要に応じ適宜きわめて容易に選択できる2つのうちの1つの手段にすぎないことである。したがつて、審決の相違点①の容易性の判断は正当である。

3  取消事由(3)について

連続帯状折込封筒形成紙葉からなる2片をミシン目を境に連接した状態で、帳票用封筒を作成するための1片の周囲の接着剤及び開封するためのミシン目を施した封筒用紙葉が乙第1、第2号証に記載されているように本願出願前から知られている以上、審決の相違点②における容易性の判断は、正当である。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

2  取消事由(1)について

1 審決の理由の要点2に摘示された引用例の記載内容は、上シート10の表面が宛名記載面であるとの点を除き当事者間に争いがない。

2 成立に争いのない甲第7号証(引用例)によれば、引用例には郵送体(セルフメーラ)について、「本発明は郵送体に関し、(中略)郵便物の一部分として、住所氏名を有する取外し自在なカード部分を含んでおり、従つて、第1に郵送体の住所部分としての機能を、(中略)有する郵送体に関する。」(訳文1頁3行ないし10行)「クレジツトカードのようなカードを郵送するには、通常このようなカードに、住所氏名や他の情報を刻印し、後に、最終消費者に郵送するために宛名書きされた封筒に挿入するのが普通である。このような二重の宛名書きや処理は、時間の浪費であり費用が高くつく。」(1頁11行ないし16行)「従つて、本発明の目的は、通常2つの部分すなわち、封筒のような外部容器と、この容器内にあるカードとから成り、郵送体を郵送するためと(中略)郵送体部分が組立てられた後、氏名、住所などがカード上に刻印されるようカードの一部分が露出される郵送体を提供することである。」(1頁17行ないし2頁4行)「図面(別紙図面(2))は、相当な長さのある細長い重なり合つた上部および下部の2枚のシート10、11から成る郵送体9を示しており、このシートは横方向に長く、縦方向に狭くなつている。」(3頁10行ないし13行)「窓枠付き封筒9の一部分を形成している小さなカード21がこの封筒内に設けられており、このカードの材料は、シート10、11の紙の材料とは異なつている。」(4頁9行ないし12行)「正面すなわち上部シート10内の表示用開口部26を通して、カード21の部分24に印刷可能であり」(5頁3行ないし5行)「郵送体9の内側に接着によつて固定されたカード21と、4つのエツジ全てを密封された封筒9と、開口部26から見える部分24に記載されている必要な名前と住所とによつて、この考案物が適切に密封された郵送体になる。」(5頁17行ないし6頁1行)との記載があることが認められる。

右の記載によれば、引用例記載の発明に係る郵送体は、(イ)重ね合わせて周囲を密封された上シートと下シートからなり、上シートには開口部を形成するとともに、右開口部にカード(帳票)の一部分が露出するように下シートに右帳票が接着されていること、(ロ)右開口部を通して帳票の右露出部分に氏名、住所が印刷されること、(ハ)右住所、氏名が郵送体の宛名としても機能することを特徴とするものであることが認められる。この事実によると、引用例記載の発明に係る郵送体は、上シートに開口部を形成することにより、下シートに接着される帳票に印刷された住所、氏名をもつてその宛名の表示とするものであるから、上シートの表面はそれ自体として宛名記載面であるということはできない。

したがつて、上シートの表面が宛名記載面であるとした審決の認定は誤りである。

3  被告は前記のような引用例記載の発明における住所、氏名等宛名表示に関する構成は二重記載の無駄がなくなつたというだけで上シートが宛名記載面でないということにはならない旨主張するが、引用例記載の発明では帳票の必要的記載事項である住所、氏名を郵送体の宛名としても機能させることにより上シートに宛名を記載する必要がなくなつたものということができるから、上シートが宛名記載面でないことは明らかであり、この点に関する被告の主張は理由がない。

4  前記当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案は単位帳票の一方の片の表面側を宛名記載面とし、他方の片の表面側を情報記載面とすることをその構成としているが、これに対し前記2で認定したように、引用例記載の発明では、本願考案の単位帳票の他方の片に相当する下シートの表面が情報記載面である点では本願考案と一致するが、その一方の片に相当する上シートの表面側が宛名記載面でない点において本願考案と構成上相違しているものといわざるを得ないから、審決は前記のような引用例記載の発明を誤認した結果同発明と本願考案の相違点を看過したものというべきである。

しかし、両者における重ね合わされて封筒を形成する単位帳票のうち情報記載面でない片についてみると、引用例記載の発明における上シートがそれ自体として宛名記載面でないのは、前記のとおりその表面に開口部が形成されているためであるから、本願考案のようにその一方の片が開口部を有しなければ、その片の表面側が宛名記載面となるのは当然のことであり、それがむしろ通常の封筒の形態である。そうであれば、本願考案において情報記載面でない帳票の他の片の表面側を宛名記載面とすることは周知慣用手段をそのまま適用したにすぎないものというべきである。

5  そうであれば、審決の引用例記載の発明における宛名記載面に関する誤認及びこれによる本願考案との相違点の看過は、審決を取消すべき事由とまで認めることはできない。よつて、取消事由(1)は理由がない。

3 取消事由(2)について

1 単位帳票の形態が引用例記載の発明では上シートと下シートが予め分離されているのに対し、本願考案では切取部を境にして切り重ね用の2片が連接されている点において両者が相違していること(審決摘示の相違点①)は当事者間に争いがない

2(1) 前記本願考案の要旨及び甲第2ないし第6号証(昭和48年5月26日付実用新案登録願、昭和52年3月31日付、昭和53年8月7日付、昭和54年8月17日付、昭和56年10月7日付各手続補正書)によれば、本願考案では右のように切取部を境に連接された封筒用帳票の2片が上切取部より分離され重ね合されて封筒が作成されるものであること(連接・切離し・重ね合せ構成)が認められる。

(2) 前記引用例の記載内容及び前掲甲第7号証によれば、引用例には前記のように予め別体として分離された封筒用帳票である上シートと下シートが重ね合されて封筒が作成されること(別体・重ね合せ構成)が記載されていることが認められる。

(3) 成立に争いのない乙第1号証(実開昭48―18508号公報)、第2号証(実開昭48―18509号公報)によれば、封筒用帳票の2つ以上の片が折込用ミシン目を境目として連接され、各片が右境目より折り重ねられて作成された折込封筒(連接・折り重ね構成)の考案(以下「乙第1、第2号証の考案」という。)が本願出願前である昭和48年3月2日出願公開されたことが認められる。

3 そこで、本願考案と他の2構成のものを対比すると、本願考案と引用例記載の発明では分離されて別体となつた封筒用帳票の2片を重ね合せる構成の点で共通し、本願考案と乙第1、第2号証の考案では封筒用帳票の2片を連接した構成の点で共通している。しかし、本願考案における連接した2片を切離す構成が乙第1、第2号証の考案に含まれていないことは明らかであるし、切離し構成を採る本願考案にあつては全体を裏返すことなく一方の片に宛名を、他方の片に情報を記入できるのに対し、折り合せ構成を採る乙第1、第2号証の考案にあつてはいずれかの片に記入後必ず全体を裏返さなければ他の片に記入することができないという記入方法の面において両考案に効果上の差がみられる。したがつて、乙第1、第2号証が本願考案の切離し構成を示唆するものとはいえない。

そうであれば、乙第1、第2号証の考案が本願出願当時周知の技術であつたと仮定して、引用例記載の発明に右技術を併せ勘案しても、これらから本願考案の前記相違点の構成をきわめて容易に推考することはできないものというべきである。

4 被告は、予め分離された2片の重ね合せ構成が引用例により公知である以上、連接構成の2片を重ね合せて封筒とする場合これを折り重ねるか、切離して重ね合せるかは容易に選択し得る事項である旨主張する。しかし、前記のように連接構成の2片を折り重ねるか切離して重ね合せるかによつて効果に差がある以上、両者は容易に選択し得る事項であると認めることはできず、また、引用例は別体として分離状態にある2片による封筒作成に関し開示するもので、分離自体について何ら示唆するものではないことは明らかである。そうであれば、本願考案は連接した2片の切離しに着想したことに進歩性を認めるのが相当であり、この点に関する被告の主張は理由がない。

5 以上述べたところによれば、相違点①に対する審決の判断は誤りであり、取消事由(2)は理由がある。

4 しかして、審決の右の誤りはその結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく審決は違法なものとして取消を免れない。

5 よつて、被告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 松野嘉貞 清野寛甫)

〈以下省略〉

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